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ワークショップレポート

ゴールデンウィーク企画『五感で楽しむ本』スペシャルイベント第3弾
ウェブから学ぶ電子出版の可能性 ~多様な読書スタイルを考える~(2015.5.7)

イベント概要


電車やバスの中を見渡すと分かるように「国民的情報端末」となっている、スマートフォンやタブレット端末。デバイス(機器)やコンテンツの発達に伴い、さまざまな使い方・楽しみ方が広がっています。その一つである「電子書籍」も、多くの読者や多様な読書スタイルとともに普及し、豊かな文化醸成に一役買っていると言えます。
ハイブリッド型総合書店hontoを展開し、より良いサービスやユーザーのための環境づくりに努めてきたDNPでも、この電子出版をさらに進化させる取組みに力を注いでいます。そこで今回は、ウェブ業界のスペシャリストである木達一仁さんと山岸ひとみさんを迎えたトークイベントを開催。出版・編集に携わる方々を主な聴衆に迎え、電子出版に取り入れるべき新しい概念を一緒に考えるイベントとなりました。


イベントの説明

ゲストスピーカーの登壇に先立ち、進行役のDNP・佐々木愛さんより開催の挨拶が行われました。「DNPは創業以来、130年以上にわたって出版物の印刷・製本を通じ、出版文化と深い関わりをもってきました。電子出版に関しても、1985年に日本初のCD-ROM出版である『最新科学技術用語辞典』を皮切りに、最初期から出版社のお手伝いを行ってきました。また、出版だけでなく、コンテンツ販売機会の提供、マーケティング、販売促進支援など、電子出版に関わるあらゆる面でサポートしてきました」と、まずは電子出版に携わってきたDNPの実績を紹介。さらに、これからの電子出版の可能性を探るきっかけづくりとして、今回のイベントを企画したことを説明しました。


木達一仁さんによるトーク
~ウェブデザインにおけるアクセシビリティへの取り組み~

いよいよ本日のゲストスピーカーがご登壇。木達一仁さんは株式会社ミツエーリンクス取締役CTOであるとともに、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)副委員長も務める「ウェブアクセシビリティ」のスペシャリストです。このウェブアクセシビリティとは、“年齢・身体的条件に関わらず、ウェブ情報にアクセスし利用できること”を示します。今回は、「ウェブデザインにおけるアクセシビリティへの取り組み」というテーマで語っていただきました。「ウェブには国境がありません。世界中の誰もが、便利にコンテンツを利用できるかがウェブ構築には大切です」と木達さん。「高齢者や障がい者への対応はもちろん、ユーザーニーズの多様化、変化のスピードが速くなっている現状で、電子出版の価値を最大化するためにも、アクセシビリティを第一に考えてコンテンツを作ることが必要」と訴えました。アクセシビリティを高めることで、より多くのユーザーにとって、PCやスマホをまたいだウェブ閲覧が可能になります。それが、電子出版の普及にもますますつながっていくでしょう。

「Webデザインにおけるアクセシビリティへの取組み」 木達一仁さん
http://www.slideshare.net/mlca11y/web-47896146


山岸ひとみさんによるトーク~新たな読書体験をデザインする~

続いて、人間中心設計(HCD)の専門家で株式会社Gaji-Labo 取締役CXOの山岸ひとみさんがご登壇。山岸さんは“読書体験”を改めて考察するところからトークをはじめました。「読書体験は本だけに依存しません。紙や電子の違い、読む場所の違い、それらの違いによって、読書体験は毎回違うものになります」。その上で、山岸さんは「少なくとも私は、紙と電子に同質の体験は求めていません。違う体験ができるところに期待したい。道具が拡張することで、読書体験も拡張するはずです」と話し、読書の未来のためには体験価値を重視してサービスをデザインする「ユーザーエクスペリエンス(UX)」の必要性を説きました。また、アクセシビリティ対応については「経済的価値も隠れている」との視点を提示。多数のユーザーに先行してニーズや新しい利用方法を提案できる「リードユーザー」との共同体験によってサービスやコンテンツを考える「インクルーシブデザイン」の考え方を解説しました。新しい電子出版ビジネスの可能性に、会場の皆さんは、大きく頷いていました。

「読書体験を考える――サービスとしての読書体験」 山岸ひとみさん
http://www.slideshare.net/hitoyam/dotdnp-150507yamagishi


トークセッション~電子出版の課題と可能性~

ゲストスピーカーお二人のトークが終了し、今度は司会の佐々木さんを交えて三者でトークセッションを行いました。電子出版を取り巻く現状について、木達さんは「規格対応の問題」を挙げます。「ウェブには国境がないのに、電子書籍の世界は販売元ごとに区切られた、断片化した世界に見えて、少し窮屈さを感じます」。山岸さんは「プロダクトとして完成されている紙の本に対して、デジタルならではの強みをどう見せていくかが今後の課題でしょう」と語ります。「紙のついでとしてのデジタルではなく、デジタルファーストでの本づくりに期待したいです」。ゲストスピーカーそれぞれの電子出版に対する課題と可能性への言及を受けて、最後は佐々木さんが、「デバイスや読書体験など、電子出版を取り巻く環境は今後ますます拡張するでしょう。拡張する部分に注目しながら、本日のような対話の場を設けることで、新しい本、新しい読書について考え続けたいと思います」と締めくくりました。


電子出版への熱い思いをぶつけ合った質問タイム

最後に聴衆の皆さんからの質問も受けつけました。実際に電子書籍を作っている方からも手が挙がり、「木達さんと山岸さんが考えている、電子出版の不満を具体的に教えてください」との質問も。木達さんは「好きなときに、好きなデバイスで、どこで買ったかに関わらず、自由に使えるような技術とビジネスモデルを早く構築して欲しい」と答え、山岸さんは「例えば古い民俗学の書籍など、電子書籍では出ていない本がたくさんあります。欲しいものがそこにあるという状態を早く実現して欲しい」とし、アーカイブの拡充を訴えました。佐々木さんは「サービスを提供する側としても、ユーザーからの期待値の高さをひしひしと感じています。読者にとって有益なサービスにならないと新しい読書体験にはならない。そのためにも、ユーザーに満足いただけるサービスの構築が必要です」と電子出版に携わる者としての責任の大きさを実感しているようでした。


おわりに

道具の変化によって読書体験も多様化し、電子出版の可能性も広がっています。マーケットの立ち上がりによって、制作課題やビジネス課題も鮮明に見えてきました。今回のイベントの主なテーマとなったアクセシビリティ対応や読書体験をどう捉えなおすか、また新たな読書の形をどのように構築していくのか、本をめぐる議論の切り口も無数に広がっています。誰もが気軽に電子書籍に触れられる環境が整った今だからこそ、有益なサービスについての対話も活発にしていかなければなりません。これまでDNPは電子出版業界の最先端に立ち、実績を積み重ねてきました。今後もこのようなイベントを開催し、サービスを提供する側、サービスを受け取る側、さまざまな人たちを交えて対話を重ねる場を設けることで、新たな読書スタイルの確立に貢献していきたいと考えています。

【ゲストプロフィール】

■木達一仁(きだち かずひと)さん

株式会社ミツエーリンクス取締役CTO。宇宙開発関連組織でウェブマスターとしての経験を積んだ後、IT業界へ。以後、ウェブコンテンツの実装工程に多数従事。2004年2月より、株式会社ミツエーリンクスに参加。一時はWeb Standards Project(WaSP)に参加し、ウェブ標準の普及・啓発活動を展開。クライアントワークとしては、主にフロントエンドの設計や実装、関連ガイドラインの策定に従事。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)副委員長も務める。

■山岸ひとみ(やまぎし ひとみ)さん

株式会社Gaji-Labo取締役CXO。特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構認定人間中心設計専門家。一般財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー。主にウェブを中心として情報設計、インターフェイス設計のキャリアを積んできたが、2014年からワークショップデザイナーとしての活動に重点を移す。プログラム設計やファシリテーションを事業として展開するかたわら、外部に開かれたワークショップを定期的に企画・運営している。また、ワークショップの事例や研究成果等の発表も積極的に行い、価値や意義の啓蒙にも務めている。


ACCESS

開館時間
月~土曜日(祝日を含む)
11:00~20:00
休館日
日曜日・年末年始
所在地
東京都新宿区市谷田町1-14-1
DNP市谷田町ビル

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